2019年3月18日、突如Appleストアに現れた第5世代iPad mini。イベントが開催され大々的に発表されるイメージが強かったAppleデバイスにおいては例外的な登場の仕方であり、存在自体は散々リークされつくされていたもののこのような形でひっそりとアップデートされると予想できていた人は少なかったのではないでしょうか。第5世代iPad miniがAppleストアに掲載されたのは3月18日でしたがその時点では予約開始のみで、発売日は3月30日。私は予約していましたが家に届いたのは4月1日でした。私にとっては久々のiOS端末であり、自分用に購入した端末を振り返ってみたところ恐らくiPhone 5以来のiOSとなります。自分の記憶とはやや勝手が異なる操作感に戸惑いつつも約1ヶ月間第5世代iPad miniを使用しましたので、簡単にレビューをお届けします。
外観をチェック
第5世代iPad miniの評判を二分にしている大きな要因の1つがその外観。というのもこのiPad mini、約3年半ぶりにアップデートされたシリーズでありながら外観は前モデルとほぼ同じで目新しさが皆無なのです。事前のリークによってだいぶ前からわかっていたことではありますが、実際に第5世代iPad miniを目にして、手に取ってみると「古臭い」とまでは言わないものの「最新モデル」という言葉はお世辞にも似合わない、やや垢抜けない雰囲気を感じます。その垢抜けなさの要因の1つが極太のベゼル。iPhone X以降のiPhoneやその他のスマートフォンは画面をギリギリまで広げたベゼルレスデザインがトレンドであることは言うまでもなく、そういった最新のスマートフォンを手にしたことがあればこのベゼルの太さには野暮ったさを感じることでしょう。
指紋認証機能「Touch ID」に対応したホームボタンも、iPhone 5Sにて実装された当初は先進的な技術の象徴でしたが今となってはもう過去の物。指紋認証そのものは現役の技術で便利なものですが、ホームボタンに関しては詳しくは後述しますがiOSの進化とは確実に噛み合っていないように感じてしまい、なかなか違和感が拭えない結果となっています。また、”デザインが変わっていない”ことの数少ない利点として誰もが考えたであろう前モデルのiPad miniからのケースの使いまわしですが、結論から言うと不可能ではありません。しかし背面カメラの位置が微妙にずれているためカメラを活用できなくなるかもしれないこと、伸縮性が無いまたはタイトなサイズのケースの場合はうまく本体に装着できないことなどからあまりアテにはしない方がいいでしょう。
生き残ったイヤホンジャック
前モデルと同じ筐体のためイヤホンジャックが生存していることも見逃せないポイント。イヤホンジャックはUSB Type-Cポートを採用したことで注目を集めた最新のiPad Pro 11インチ/ 12.9インチ(第3世代)からは去勢されてしまっており、大画面とハイスペックを兼ね備えた最新のマシンでゲームを楽しもうとしていたユーザーの出鼻を挫く形になっていました。その点第5世代iPad miniは、画面サイズこそ劣るものの後述の通りパフォーマンスは最新のAppleデバイスと同等でかつイヤホンジャックが健在。ここ最近のハイエンドモデル=ワイヤレスイヤホンが前提となりつつ流れの中、有線イヤホン派にとってはまたとないチャンスでしょう。これを逃してしまうと次はどうなるか分かりません。
最新プロセッサ搭載でハイパフォーマンス。Apple Pencilにも対応したが・・・
イマイチな外観に対して中身はピカイチなのが第5世代iPad mini。プロセッサにA12 Bionicチップ、3GB RAMを搭載しておりスペック的にはiPhone XRと同等。iPhone XRが10万円近い価格であるのに対して第5世代iPad miniは5万円以内で購入できてしまうので、コストパフォーマンスは申し分ないでしょう。
A12 Bionicの実力
ハイスペックが要求されるゲームの1つ、PUBGモバイルは初回起動時にデバイスを認識しそのスペックに合わせた最適な画質設定を自動で選択してくれます。第5世代iPad miniでPUBGを起動してみたところ、文句なしの最高画質に。スマートフォンよりも大きい画面と無理なく両手で操作できる軽さを備えた第5世代iPad miniは、PUBGモバイルを始めとした流行の3Dグラフィックのサバイバルゲームにはうってつけのタブレットと言えます。
ちなみにAntutuベンチマークでは36~37万点台を記録。いくつかのメディアにてiPhoneのレビュー記事をチェックしてみたところ、このスコアはシリーズ最新の最上位モデルであるiPhone XS MAXとほとんど同等のスコアであることがわかりました。数値のわずかな大小の差に意味はほとんどありませんが、上でも述べたように倍近い価格で販売されているハイエンドモデルと肩を並べるコストパフォーマンスには本当に舌を巻きます。
初代Apple Pencilへの対応について
最新プロセッサ搭載の他にもう1つ、第5世代iPad miniが持つ目玉機能がApple Pencilへの対応。筆圧や傾きを検知し手書きのメモや資料への書き込みなどはもちろん、専用アプリを用いたイラスト制作やLightroom上での写真編集などクリエイティブな用途にも耐え得るクリエイター必見の機能です。
しかし対応しているのはApple Pencil(第一世代)であることがポイントで、これが絶妙にiPad miniというデバイスと噛み合っていないというのが正直な意見。外に持ち出せる大画面というサイズ感が魅力のiPad miniに対して、第一世代のApple Pencilは持ち運ぶことを全く想定されていない設計であることは明らか。
過去ASUSのVivoTab Note 8やZenPad S8.0、Surface Pro 4、Galaxy Note8など専用のスタイラスペンに対応したスマートフォンやタブレットにはいくつか触れてきましたが、結局のところそのペンを利用するかどうかというのは、優れた機能よりも本体とペンがいつもそばにあるかどうかが全てであるという結論に至りました。その点スマートフォンでありながら本体にペンが格納できるGalaxy Note8は最高のデバイスだと感じていますし、逆にその辺りが全く配慮されていないZenPad S8.0は持ち運ぶことはほとんどなく、当時所属していた大学の研究室に置きっぱなしで利用していました。
最新の第二世代Apple PencilとiPad ProはマグネットによってApple PencilとiPad Proを吸着させることが可能で、その状態のままApple PencilにはiPad Proからワイヤレスで充電が可能になり、2つで1つのワンセットの状態がだいぶ形になってきました。
そのタイミングで発売となった第5世代iPad miniは残念ながら第一世代のApple Pencilにのみ対応。最新のApple Pencilに対応してしまうとiPad Proとの差別化が難しくなってしまいますし、筐体も専用に設計しなおさなければいけなくなるという事情はよく分かります。以前の私のように家や大学、職場でのみ使うのであれば第一世代のApple Pencilでも全く問題はなく、あるかないかでは当然あった方がいい機能なのですが、単純に第二世代のApple Pencilが凄く使い勝手が良さそうで、反対に初代Apple Pencilは私の現在の環境では全く使う気になれない出来のためどうしても羨ましくなってしまいます。そしてエントリーモデルとしての差別化のために今後も初代Apple Pencilが残り続けてしまいそうなことが残念です。
ホームボタンを必要としないUIに戸惑う
ホームボタン付きのiOSデバイスを使い続けてきた人であれば違うのかもしれませんが、久々にiOSを触った私はホームボタンを使わずに操作ができてしまうソフトウェアがホームボタン付きのハードウェアに入っていることにやや違和感を覚えました。慣れてしまってからはどうってことないのですが、最初はどうしてむずがゆかったので。ノッチの存在を前提とした操作も同様。コントロールセンターを呼び出す操作は画面の上右半分からのスワイプダウンになります。ノッチがないシンプルな画面でありながら操作を左右に分けてしまうのは、正直あまりスマートではありません。また、呼び出したコントロールセンターが右上に縮こまっているようで、画面に対して小さいのもやや気になります。真ん中に寄せると指を伸ばす必要が出てくるのかもしれませんが、せめてタブレットであれば相応のサイズにするくらいの配慮は欲しかったところです。
スマホ以上の大画面を持ち歩く快適さ
現在主流のスマートフォンの画面サイズは約6インチ前後であるのに対してiPad miniは7.9インチ。最新のXperiaを見るとわかるようにスマートフォンの画面は縦長がトレンドですが、iPad miniのアスペクト比は4:3となっており、スマートフォンを見慣れているとかなりの横幅に感じます。しかし7.9インチ画面を搭載したiPad miniのサイズ感は絶妙で、後ろからガシッと掴んでも、横向きにしてベゼルを掴んだ時でも、片手で保持できる最大サイズなのではないかと思います。野暮ったい極太ベゼルではありますが、掴むスペースと考えれば悪くはない気もします。もちろんこのベゼルの分本体サイズを削ることができればそれはそれで持ちやすくなるのだと思いますが。
また、大抵の鞄に忍ばせられるサイズであることも嬉しいポイント。男性の場合は女性と違ってハンドバッグの類を持ち歩くことは少ないかと思いますが、ボディバッグやクラッチバッグであってもiPad miniであればすんなりと収まってくれるためちょっとした外出時にも自然と持ち出すことができます。持ち出すことが苦にならなければ、どんどん活用したくなりますよね。
True Tone対応でディスプレイがより見やすく
7.9インチ、2,048×1,536ピクセル、アスペクト比4:3のディスプレイは7年も前になる2012年の初代iPad miniから変更されていません。しかし、第五世代となったiPad miniは新たにTrue Toneに対応しています。
True Toneとは、周辺の照明の明るさや色からディスプレイの色温度を最適な状態に自動で調整してくれる機能。照明の色によっては画面が黄色味がかって見えたり反対にやけに青白く感じるシチュエーションは少なくないと思いますが、第五世代iPad miniはそこの部分を自動で判断し調整してくれるというわけです。
この機能が特に便利に感じたのはウェブサイトや電子書籍の閲覧時。先ほど述べたように私はiPad miniを頻繁に外に持ち出しており、暇さえあればKindleで雑誌や漫画を読んでいます。室内か外か、日光か照明か、照明であれば電球色か昼白色か昼光色かなど場所によって光の環境は様々ですが、ディスプレイに違和感を感じたシーンは少なく、意識はしていなかったもののふとした時にTrue Toneの実力に気が付きました。
iPad miniが持つ、標準的なスマートフォンであれば約2台分となる表示領域はやはり単純な「閲覧」にこそ最も向いていると感じます。そのために最も重要となるディスプレイに着実な進化を感じられたことについては、高く評価できるポイントだと言えます。
ちなみに今更な話になりますがiPad miniのようなアスペクト比4:3のディスプレイは、一般的な書籍と比率が近いので電子書籍を表示させると画面いっぱいに表示できるのでおススメ。さすがに横向きの見開き表示では文字が小さく読みにくいですが、1ページずつ表示させればピッタリハマってくれるので快適です。反面動画の主流は16:9のため、iPad miniで表示させるとこのような黒帯が上下に表示されます。見にくいとまでは言いませんが画面サイズに対してやや勿体ない気持ちがあるのも事実。ディスプレイサイズが多様化した現在ではこればっかりはどうしようもないですね。
まとめ。第5世代iPad miniは場所を選ばずに使える高性能なタブレット
第5世代iPad miniは従来のモデルからボディをそのまま引き継いだことで、良いところ・悪いところも基本的にはそのまま。しかしそのおかげかiPad miniという今となってはニッチな需要になってきたデバイスを、新規ユーザーと根強いファンの両方に受け入れられる形に仕上げることに成功していると思えます。特にサプライズともいえる最新のA12 Bionicの搭載は間違いなく英断でしょう。
しかし個人的な欲を言うと、本当に求めていたのはベゼルが細く、ホームボタンがない、最新のApple Pencilに対応しType-Cポートを備えた、言うなればiPad Pro miniのようなタブレット。早いところ使い勝手の悪いApple PencilやLightningコネクタを切り捨てて欲しいのですが、今の流れを見るに下位に位置付けられるモデルにはこれらの要素をあえて残すことで差別化を図る、という流れがAppleデバイス全体に広がっていきそうなのがやや気がかりではあります。
今となっては個人向けにタブレットを展開しているメーカーも少なくなり、日本におけるタブレットの市場は数年前と比べると明らかに縮小しています。Windows 10を搭載したノートPCとしても使える2 in 1デバイスは別として、Android搭載機となると選択肢はほとんどないと言っても過言ではありません。そんな状況の中、最新のiPad miniはタブレットらしい価格で購入でき、タブレットらしい使い方ができる、かなり有力な選択肢の1つになります。
第5世代iPad miniであれば、自宅や外出先、職場や学校、旅先でもどこにでも大きな画面と最新のハイパフォーマンスを持ち歩くことができます。スマートフォンのサイズではちょっと物足りないと感じているのであれば、検討する価値は大いにアリです。
レビュー動画公開!
ちょっと遅れてしまいましたがYouTubeにレビュー動画を投稿しましたので、良ければこちらもチェックしてみてください。
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